フンザのハセガワ学校
今朝のフンザは気の遠くなるほどよく晴れわたっていた。杏の花が百花繚乱、段々畑のあぜ道に沿って清水が流れ下る。桃やリンゴ、杏の木は、自らの美しさを隠すように畑の端にひっそりと咲く。花の枝はラカボシの峰を小脇に抱え、女たちが笑いながら野良への道を急ぐ。土の道を歩く感触が春うららである。カケスが枝から枝へ飛び移る。
清水で顔を洗う老人にあいさつをして、さらに道を下る。小麦の芽が出揃い始めた浅緑の畑のかたわらで、羊が草を食む。桃源郷で暮らせば長生きするわけだ。
雪の峰々が紺碧の空に鋭く突きささるよう。その背後にウルタルⅡがそそりたつ。長谷川恒夫が命を落とした山だ。1991年10月10日、当時まだ未踏峰であったウルタルⅡに登攀中、雪崩に呑み込まれたのである。エベレスト、世界三大北壁を登頂したトップクライマーにしてかなわぬ山であった。死を悼むなかで、彼の妻は、山のふもとに学校を建てた。ハセガワ・スクールである
。
花の道を子供たちがやってくる。赤いカーデガンをお洒落に着こんで、とても奥地の子供たちとは見えない。学校の背後にそびえるウルタルの山高く長谷川恒夫は子供たちを見守るように今も眠る。花と雪山に包まれて、あっちからもこっちからも子供たちが行進してくる。どの子の頬も赤い。先生の号令で朝礼が始まった。低学年の子供たちは愛くるしく、高学年はきりりとひきしまって、顔立ちがみないい。
子供たちは、全員で暗唱したアラーへの祈りをささげる。体操をし、歌をうたい、訓話に耳を傾ける。ああ学校はいいなあ。号令がかかって、子供たちは行進しながら退場する。教室は広くはないけど、なかなかしっかりとした造りだ。廊下を飛ぶようにして、教室をのぞいた。今勉強しなくて、いつ勉強するのだという熱気に包まれていた。長谷川さんの見ている前で、なまけてなんかいられない。
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