パキスタン フンザ 2カラコルムのご来光を拝もうと4時に起きた。夜のうちにスズキ(小型ジープ)で出発する。登山道とほとんど変わらない悪路を這うようにして登っていく。ドスンドスンと揺れるたびに転がり落ちそうになる。何かにしがみついていないホントに落ちる。
集落を抜けて行く。こんな高いところにも人が住んでいたのだ。まだ深い眠りの中についているのか、シーンとして物音ひとつ聞こえてこない。1時間ほどして、ドゥイカルの丘に着いた。気温0℃、寒い。
空が白みかけてきた。雲ひとつない好天、ぐるりと名だたる高峰を見渡す。6時、ダイヤモンドリングのようにラカボシ(7788)の頂上が輝き出した。ついでディラン(7257)の尖ったピークに光が当たる。背後に向きを変えると、ウルタルⅠ(7329)、ウルタルⅡ(7388)の頂上が、ピンクに染まりだした。ご来光はこのように峰から峰へと光芒を放ち、ピークの軌跡を描いていく。フンザピーク(6600)が時を待って明るくなりだした。レディースフィンガー(6000)はその名の通り、貴婦人が小指を立てたような形をしている。どこか気品があって、寄り付きがたい。レディースフィンガーにからみつこうものなら、あの鋭い爪でひっかかれるだろう。あなたが噛んだ小指が痛いなんて、彼女は歌わない。冷たい笑みを浮かべて、奈落の底までついてくる。
ぞくりとする美々しくも壮麗な峰々、際限もない群峰の乱舞、荘厳な高山の陳列所。北杜夫はそう書いた。
彼は1965年、ディランの登頂隊に参加し、後に登頂記『白きたおやかな峰』を著した。登頂といっても医師として同行しただけで、大半はテントの中で酒を食らっていた。それでいて、「月光がすべてのものに神秘的な影を投げ与え、これほど渺茫たる天地の広がりを見たことがない」などと書くのである。
「厖大な岩と雪が何をか人を魅了し、圧倒し、厳粛にさせるものを形造っていた。この世ならぬ痛みにも似た何かを訴えていた。峰々もそれぞれの微光を放ち、ゆるぎなく調和していた。大自然の魔術に幻惑されて、寒気の中に立ちつくしていた」。
うーん、目の前の光景をかくも荘厳に表現するとは作家は違う。「美女の胸のようにまろやかで、しなだれかかる蠱惑的な腰つき」なんて思っても書いてはいけない。
日は昇る。カラコルムの山々を明るく照らし出して。日の当たる斜面と影の部分のコントラストが山容を際立たせていた。
寒さに凍りつきそうになって、近くのレストハウスでチャイを飲んだ。帰り道はすっかり朝になり、人々の営みが始まっていた。
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