秘境 ブータン 3
ブータンの国道1号線といっても、つい最近、西と東が結ばれたばかりで、ホントにこのまま道は続いているだろうかと不安になった。モンガルへの道、トゥムシン・ラ峠でダルシンが霧の中にぴたぴたとはためいているのを見て、地獄の使者がやってくるように思われた。霧にまかれたうえ、険阻な道はぬかるんでいて、ハンドルを取られて横滑りする。ガードレールがないから、下手をすると1000メートル下の谷底へ落っこちる。
そんな中、トンサ行きの定期バスが亡霊のごとく通り過ぎていく。思わず手を合わせてしまった。向こうもこっちを見て、手を合わせていたかもしれない。
もっともわがドライバーの腕は確かだ。なにしろ一緒に釜の飯を食った仲だから。「おれのワイフは美人でボインだ」といって写真を見せてくれた。「うまいことやりゃあがって、おまえはどのように壁をよじ登ったのだ」と訊いたら、「うっししっ」と笑って答えてくれなかった。それが安心とどう結びつくのかといわれても困るが、ワイフは美人のほうがいい。
タシガンに行く途中、石が転がっていて、みんなでどかさないと通れなかった。街への道は遠い。すでにとっぷりと暗くなっていた。はるか山の上に、ちらりと灯りが見えた。走れども走れども近づいてこない。等高線どおりに奥へ入っていく。30分もかかって灯りが再び見えてきた。高い山の家を尾根住まいという。あんなところで、今頃、家族そろって晩御飯を食べているのだろうか。あれでは暗くて料理が見えないではないか。
やっとたどり着いたタシガンのホテルはシャワーもなく、学校の保健室にあるようなベッドしか置いてなかった。しばらくすると停電となって真っ暗闇。仕方がない、寝袋にもぐって寝るとするか。ところが夜中じゅう、近所の犬たちがオールキャストで、キャンキャン吠えまくる。うるさい。だいたいブータンの犬は、昼間、ドタッと寝転んで怠惰に過ごしているのに、夜になって活躍するとはなにごとだ。しかし犬の遠吠えを聞いたのはいつの日かと、変に懐かしがったりして、秘境の夜は更けゆく。
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