秘境 ブータン 2

ブータンの谷では、1日のある時間、必ず山風と谷風が吹く。(山風、谷風については中学のとき、菅沼先生から教わった)。かなり強い風が森の木々をふるわせて、さわさわと葉擦れの音がする。ブータンにも冬青(そよご)の木があったのだ。
秘境は人の立ち入らないところだから、分け入っていくほうが邪魔者だ。「時間が止まったような」という言葉の裏に、都会人の傲慢さが覗く。時計などの産業革命の産物は、体内時計を拠りどころとしているものにとって必要ない。結果、「ちょっと待って、手帳を見てみるから」と、時計の僕(しもべ)となっていることも知らないで、ぺらぺらとページをめくったりする。ぼくなど手帳をつけたことがない。単なる閑人というかもしれないけど、時間に縛られないポリシーを生きているのだ。
森の中では、自分が限りなく小さな存在になるといい。出来れば消えてなくなるほうがいい。そのとき初めて秘境は素顔を現す。
最近、秘境を売り物にしたツアーがあるけれど、展望台、レストハウスを見に行くようなものだ。こんなところを秘境と呼ぶのは卑怯だ。
ブータンは観光化しようにも、道路事情が追いついていかない。標高差と忠実に付き合うブータニーズは、地理の教科書どおりに暮らしている。道路は等高線をなぞるようにくねくねと曲がり、橋を架けるとかトンネルを掘るという発想がない。これはインド工兵隊が開いた道だから仕方がない。まっ平らなところしか知らないインド人は、山岳地帯となると苦手だ。
ブータンの東西の直線距離は300キロしかないのに、国道1号線は600キロある。対岸のナムリンの滝を目の前にして、バスは九十九折の道をゆっくりと回って行く。いいから飛べといいたくなる。
数年前、タシガン近くに飛行場をつくって飛ぼうとしたことがあった。しかし滑走路は水平でなく途中で上り坂になっていて、飛び立とうとした飛行機は、坂であえなくクラッシュした。幻のまま人々の夢の中でしか飛行機は飛べなかった。

2010/10/20 08:40



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